第5話 ひだり、みぎまわり
「なんで叫ぶんだよ。」
叫んでいたのはさっきのストロンチウムでした。
「こいつらに心なんてないんだよ。これ見てわかるだろ、ただのデータなんだよ。」クラスの子が言いました。たぶん、何度か問題を起こしている子です。せんせいにいつも反抗しているグループの中でも中心的存在の子です。
ストロンチウムは空気を食べたり吐いたりして、その度に小さく空気が擦れる音が聞こえました。
「大沼、おまえも頭がいいからわかるだろ。みんながせんせいって呼んでるのはただのデータの集まりだってこと。」
「せんせい、痛いよ。」
「ばかなの?こいつらは感覚機能は搭載されてないの。だから痛いとか感じないの。」
「ひだりちゃん、さっきストロンチウムにぶたれて痛かった。せんせいも痛いよ。」
これはけいびのせんせいでした。いつも学校の中を巡回しているせんせいです。身長はみんなとおんなじくらい。前、誰かが階段から落ちそうになった時は体からふわふわを出して助けてくれていました。いまはそれが白くしおれてせんせいの体から出ていました。
「はると。これどうすんだよ。」さっきまで影に隠れていたもう一人が言いました。両手でコンクリートブロックを抱えています。
「ほっとく。」
「あ、ああああんたたち、もう学校に来れなくなるよ。児童更生プロジェクトに送られるんだ。」
「おまえらもだよ。」はるとはストロンチウムとひだりちゃんの首から名札をもぎりました。
「何すんの!」
そして、はるとはそれをお祭りのヨーヨーみたいに手に持ったまま、けいびのせんせいのぐちゃぐちゃのディスプレイにかざしました。ピッと音が鳴って、13817007と13817010がせんせいの顔に写りました。
「これで最後にこいつの近くにいた生徒はおまえらってことになる。一番最初に疑われるのはおまえらってことだよ。」
「はあ?嘘でしょ。そんなわけないに決まってるじゃん!」
そう、嘘です。監視カメラはけいびのせんせいに搭載されているものだけじゃなくて、校内の至る所に設置されています。その映像データをAIが認識して、学習された生徒データと照合すればひだりちゃんとストロンチウムが悪くないことは一発でわかります。でもストロンチウムは口車に乗せられて、どんどん声がきつく締め上がるようになっていきました。
「校内でAI搭載ロボットが破壊された時は、そいつが送ってきたデータだけを見るんだ。いつハードウェアが破壊されたのかは記録に残らない。」
「で、でも、でも、でもボクやってないもん!!!!」
ストロンチウムは喉が切れそうになるくらいの声で叫びました。鉄と鉄を強く擦り合わせたみたいな痛い叫びでした。
「大沼さん、小机さん、俺たちについてきてほしい。いったんついてきてくれたら、あとで君たちがわるくないことを証明するから。」影にいるやつが言いました。
「ほんとに…?」
「うん。」「早くしろ。」
はるとはせかせかしていました。別のけいびのせんせいが来たら、ストロンチウムに全部計画がばれてしまうからだと思われます。ひだりちゃんの洞察力が光りました。
「大沼、おまえもこい。」
「ひだりちゃんも、そうする。」はるとと影にいるやつの計画がどんなものかわかりませんが、ひだりちゃんが全部ストロンチウムに説明したり、せんせいに説明したりデータを確認する作業に付き合わされるのは面倒だなと思ったので、あとからはるとたちが全部やってくれるならそっちの方が楽そうなので一旦従うことにしました。