第4話 熱帯の蛾
ひだりちゃんは階段を降りていきます。さっきぶたれたところがまだじがじがしています。舌で右ほっぺの内側を舐めると、じがじががさらにはっきりとした輪郭をもってひだりちゃんを痛めつけます。だんだんとあのストロンチウムにいらいらしていきました。完全に何もかもが自分のせいなのに、ひだりちゃんのせいにしようとしたからです。でもせんせいがいてくれたのでもっとひどいことにはなりませんでした。せんせいのことを嫌う人もいますが、ひだりちゃんはいつもせんせいを嫌う人の方に問題があると思っています。
きゃぁぁあああああ!!!!!!
一階の方から声がしました。また誰かがふざけて誰かを泣かせたのかと思いました。でもそれにしてはその叫び声のあとになにもありませんでした。怖いくらいなにも聞こえませんでした。一階には異質な光景がありました、それだけが網膜の上に張り付いて、強烈な像を見せつけました。せんせいが死んでいました。
せんせいは人工知能なので死にません。でもせんせいのハードウェアのなかみが、廊下に全部ぐちゃぐちゃに流れ出していました。せんせいの顔も硬いもので何度も殴られたみたいで、綺麗な白い肌に熱帯の蛾みたいな七色の線がたくさん引いていました。ディスプレイの下のなにかも見えていました。「痛い」と、またひだりちゃんは思いました。