第3話 先生

みんなが席を立ちます。それぞれがブラウン運動のようにぐちゃぐちゃに動き出します。ひだりちゃんはたいてい席についたまましばらく本を読んでみんなが教室から出ていくのを待ちます。このときのみんなの動きは予想がつかないので、混乱します。さっき借りた本を読みます。ヘッドセットをつけるとみんなの声や椅子を引く音が柔らかくなって本の内容に集中できました。「宇宙への秘密の鍵」という文字が魅力的だったので借りました。ページをめくり、文字を一個ずつ頭の中でしゃべりました。それなのに、頭がピンと痛くなって振り返りました。さっきのストロンチウムがひだりちゃんのヘッドセットを思いっきり引っ張ったのです。髪の毛が絡まって何本か抜けて、教室に差す夕日の光をいっぱいに蓄えてちらちら輝きました。

「痛い!」
「あんた、さっきのごめんはないわけ?」
「遅刻したのが悪いよ。14分も15分も、遅刻していることに変わりはないんだから。遅刻になって成績が落ちるのがいやなら、時間通りに席についていればいいよ。」
ストロンチウムはひだりちゃんをぶちました!!ひだりちゃんの右ほっぺをぶちました。ぶたれたところは焼けるような痛みでした。空気中の分子がみんなひだりちゃんの右ほっぺに攻撃をしているような感じでした。頭の中でジーーという鈍い音が聞こえます。
「せんせいが見てるよ。」
「だからなに。」
「アプリで通知がいくよ。」
「うざいんだよ」
ストロンチウムはまたぶちました。同じところです。右手を高く上げてぶちました。窓枠で区切られた夕日の光を反射するだけのボードが、鮮やかな白一色になって、せんせいが現れました。
「13817010さん、13817007さんへの暴行を確認しました。これは記録され、管理委員会とあなたの保護者にアプリで報告されました。暴行を続けた場合、けいびのせんせいを呼び出します。」
ストロンチウムの息がひだりちゃんの髪にかかって、規則的に揺れます。もう他の生徒はいませんでした。昇降口で騒ぐ生徒たちの声が、鉄筋コンクリートの冷たい骨に乗せて教室全体を微かに震わせました。ひだりちゃんの顔は粘土でできていて、ぶたれた衝撃で左寄りにぎゅっとなって変な顔になっていることでしょう。


「すみません。」ストロンチウムはそのまま教室を出ていきました。ひだりちゃんのヘッドセットは床に軽い音を立てて落ちました。せんせいはしばらくすると丸い波形が読み込み中のボタンのようになって、テロンという音と一緒にまたただのボードに戻りました。